山本きゅーり(Vo, Cho, Pf, Key)
新曲6曲、プラス既に発売しているFANFAREに収録された3曲を含めた9曲のフルアルバムです。
FANFAREに収録されている3曲を除いて、一番最初に出来たのは唯一のインストである"sound track"でした。
この曲は、カメラマンのもりしが自分の撮った写真を大久保つぐみさん(FANFAREのジャケットを描いてくれた人)にイラスト化してもらい、それを元にわたしが曲をつけ、一枚のCDをつくる、という企画をしたところから産まれました。夏頃だったかな。
もりしはその作品に"マリンスノウ"というタイトルをつけていたし、つぐみさんは"そこへ"というタイトルで絵をアップをしていて、わたしはそんな二人を思って、"sound track"というタイトルをつけました。全部バラバラで全部いい。二人への気持ちがたっぷり詰まっているせいで、わたしはこの曲を聴くと、はじめて三人で会った日に吉祥寺の喫茶店で食べたハチミツのケーキのことを思い出します。三人おそろいで、ハチミツのケーキとバナナジュースを頼んだんだった。なんて幸せな思い出だろう。
ちなみにアルバムのタイトルはこの曲をつくるよりも前に決めていて、どうして同じタイトルをつけたのかというと、「SOUND TRACK」というアルバムにおいて、たとえば"ハチミツのケーキを思い出す"ようなことは、大重要なことなんじゃないかしらと思ったから。うれしくってつけちゃったんだなぁ。
にしても、これだけハチミツのケーキ、って言われると食べたくなるでしょう?吉祥寺の、ゆりあぺむぺるってお店に是非。
その次に出来たのが結婚する友達へのプレゼントとしてつくった"結婚前夜"。
この曲についてなんやかんや言うのは野暮な気がするから、いいや。積み重ねてきた時間に勝るものなし、です。モットー。
これと並行して作っていたのが"モノローグ"。実はこれは"元・結婚前夜"で、最初はこの曲を結婚の曲にするつもりで書き進めていたのだけれど、途中で、なんせ暗いことに気がついてしまって、やめた。ウェディングソングで「ふたつ許せないことがあります」なんて言ったら、だめだ。あったとしても、だめだ!
それで一時中断していまの"結婚前夜"を作りあげたのだけれど、グッドなメロディーとナイスな歌詞が出てきているというのに放っておく理由なんてないのだから、と思って、これはこれとして思っきし好きなように書き換えて形にしました。
書き終えて思ったけれど、わたしは昔から「全部持って行こう」と思いがちですね。心はわりとマッチョ。
次がたぶんスローナイトで、これは元々しゅんくんが早い段階でデモを持ってきてくれていたのだけれど、わたしがメロと歌詞をつけるのにえらい時間がかかってしまって。だいたいそういうときはとにかく散歩に出かけて、所謂、「おりてくるのを待つ」のだけれど、そうやって深夜の散歩中に「おりてきた」のが、"つまらなくはないスローナイトスローナイト"。締切ぎりぎりのくせして、つまらなくはない、うえに、スローナイト、とは、我ながらなんて呑気な脳みそ!
でもあの、ときどきやってくる、なんとなくいいかんじのする夜っていうのはなんなんだろう。どうしようもない肩こりとか、恋人へのしょうもない怒りとか、お金がない憂鬱とかを、いっさいがっさいやさしく引き取ってくれるような。
この歌詞が出てきたときもそうだった。目の前には課題が山積みで、それでもつまらなくはなくって、桃のネクター飲みながら、深夜の環七を歩きながら、妙に満たされた気持ちになっていたんだった。
過去の曲でいえば、"旅人の口笛が鳴る夜のこと"や"エンドロール"もそんな夜のことだ。
そして"ネバーランド"。もーー、朝6時のデニーズで異常なくらいモソモソしたパンケーキを食べながら、そして大粒の涙を流しながら書き上げたこと、絶対、一生忘れない。その隣で「生活保護もらいてえ〜」と話していたカップルのことも。働け!
そのままスタジオへ行って歌入れだったのだけれど、まだホヤホヤの熱がこもっていたものだから、泣けちゃって泣けちゃって、歌が全然うたえなかった。恥ずかしくて死にそうだった。
「一旦休憩しましょうよ」と声をかけてくれたエンジニアの池田さんがそのあと何故かむちゃくちゃ泣ける象の親子のうたをYOUTUBEで見せてくれて、更に泣いて、「わたし象の歌で泣いてる場合じゃないんだった」って笑ったこともよく覚えているし、「人のことを信じたり、期待したりする行為は、とても勝手で、とても大事なことですね」と言われたことも、よくよく覚えている。まったくその通りで、わたしは人に期待をしたし、期待をされたかったし、それが出来なくなってしまった状況が悲しくて、やりきれなくて、つらいままでは前に進めなくて、結果、やり場のない気持ちをひきちぎるようにしてネバーランドという曲に閉じ込めたのだから。
これからも、期待して、期待されて、月並だけれど、泣いたり笑ったりして暮らしてゆくために、しっかり歌い続けたい曲です。わたしがどんなに老いたとして、この曲だけは年をとらずに済むように。
ちなみにネバーランドってロンドンからは2時間45分で行けるそうです。なんなの!
そしてついに最後の"六月の町"。これは最後の最後ではいちゃんが持ってきてくれた曲。冒頭のフレーズからして「こりゃわたしからは死んでも生まれないな」というかんじだったし、しゅんくんが持ってくる曲はだいたい景色が浮かぶのに対して、はいちゃんが持ってきたこれはもっと内面のむずむずみたいなものが伝わってきて、それが、大変だった。メロと歌詞をつける作業=むずむずの原因探しなんだもの。はいちゃん、見てる?大変だったの。(すごく楽しかった)
最終的にわたしのむずむず探しは桃源郷というワードにたどり着くのだけれど、HOME TOWNに入っている"Our Utopia"でうたったユートピアが人の努力によってたどり着くことができる理想郷であるのに対して、桃源郷はユートピア思想をほっぽり投げてすべてを諦めたときにたどり着く場所だとされていて、ウィキペディア先生曰く「消極的な桃源郷は、現実にはなんの力も持ち得ないが、人間の精神に大きな慰めを与え得る」んだって。
なんだか美しいけれど、たぶんそこにあるのは味のないパンケーキや痛みのない注射で、これはこのアルバム全編通してのことだけれど、そしてノンブラリの全曲に言えることだけれど、わたしは音楽を通して、我に返るスキマをこじあけたい。我に返りまくって、心を正しい重さで測りたい。小さかったはずの棘が大きくなってしまうことや、いなくなってしまった人が神様みたいになるのを食い止めたい。毎日口から漏れるようにして出てゆくおはようやおやすみの意味を噛み締めたい。
だから桃源郷の向こうにはきっとなにもないんだって、最後に言えてよかったな。
残りの3曲についてはもう、よいでしょう!去年に発売したときにあーだこーだ言ってしまったからね。でも、もう一度売りたくなってしまったほどのいい曲だから、新曲たちと同じように聴いてほしいです。
さて、こんなに長い文章を読んでくれて、本当にどうもありがとう。大変だったでしょう!もう終わります。
最後に、今回のアルバムの制作や発売についてたくさんの相談に乗ってくださった池田さん、高橋名人、最高のジャケットとアー写をとってくれたレンゾくん、日本一大好きなデザイナーのみきさん、トレーラーを夜な夜な作ってくれたハルヒサさん、それからツアーの件で力を貸してくれている皆々様にスペシャルサンクスを。
そしてなにより、SOUND TRACKを手にとるみなみなみな様へ、最大の感謝と愛を込めて!